体育館の二階。授業をサボった二人の少女が、なんとなく卓球をして、なんとなく話す。それだけ。それだけなのに、このシリーズはあなたの心をぐっと掴んで、しばらく離してくれなくなる。
電撃文庫から2013年にスタートした入間人間著「安達としまむら」は、百合ラノベというジャンルに一つの革命をもたらした作品だ。「マリア様がみてる」以来の百合ヒット作と評されるほど、このジャンルに新しい風を吹き込んだ。2026年には13巻が発売予定というロングシリーズに育ち、今もなお読者を増やし続けている。
この物語って、結局どんな話?
主人公は二人。大人っぽい見た目とは裏腹に、人との関わりが極端に苦手な安達。栗色の髪がさらっとしていて、ちょっと天然気味で飄々としたしまむら。高校に入ってから知り合ったばかりのこの二人が、サボり仲間として体育館の二階で時間をつぶすところから物語は始まる。
ドラマチックな事件は起きない。大きな告白シーンがいきなり来るわけでもない。ただ、卓球をして、テレビの話をして、ときどき一緒に出かける。そんな日常の積み重ねの中で、安達の中に「しまむらのことが好きだ」という気持ちが芽生えて、どんどん育っていく。
この「何気ない日常」の描写が恐ろしいほど上手くて、読んでいるうちに自分まであの体育館の二階にいるような気分になってくる。
「安達としまむら」が特別な理由
このシリーズの最大の魅力は、安達の心理描写の精度にある。
好きな人を前にしたときの、あの独特の感覚——うまく話せない、でも近くにいたい、笑ってほしいのに怖くて笑わせられない。そういうもどかしさが、安達の一人称視点を通じてリアルに、ときにコミカルに書かれている。「あるある!」と思いながらも、「ここまで正直に書いていいの?」という驚きがある。
しまむら視点のパートも挟まれるのだが、こちらがまた面白い。安達があんなに意識しているのに、しまむらはどこかのんびりしていて、二人の温度差がじわじわと笑えて、じわじわと切ない。
それから忘れてはいけないのが文体の独特さだ。入間人間の文章は、一文一文が短くてリズミカルなのに、読み終わったあとにじんわりとした余韻が残る。詩に近い感覚とも言われるこのスタイルが、二人の関係性の繊細さを見事に表現している。百合の感情を「言語化する」のではなく「体感させる」文章、とでも言えばいいだろうか。
どこから読み始めればいい?
答えは迷わず1巻からだ。
このシリーズは伏線や人間関係が少しずつ積み上がっていくタイプなので、途中から入るのはもったいない。1巻は比較的薄めで読みやすく、「これは何も起きない話なのでは?」と思い始めたころに、じわりと感情を揺さぶられる展開が待っている。その体験を初読でしてほしい。
アニメ版も2020年に放送されており、映像で雰囲気を掴んでから小説に入るのもアリ。ただ、内心の描写の密度は小説が圧倒的に濃いので、アニメで好きになった人は絶対に原作を読むべき。
「百合ラノベって読んだことないな」という人の入門にも、「百合はいろいろ読んできたよ」という人の新たな定番にもなれる作品。体育館の二階で、二人の時間をそっとのぞいてみてほしい。
読む順番はこれで決まり
全16巻は以下の構成になっています。
- 1〜13巻:本編
- SS(ショートストーリー):サイドエピソード集
- 99.9:スピンオフ的立ち位置
- SS2:サイドエピソード集②
初めて読む方は迷わず1巻から順番に! SS・99.9・SS2 は本編を楽しんだあとで読むと、より深く味わえます。